「恭弥」
特に意味もなく私の可愛い弟の名前を呼ぶ。名前を呼ばれた本人は向かいのソファーにゆったりと腰掛けて風紀委員の仕事(学校でしてたけど結局終わらなかったから持ち帰ってきたらしい)をしていた。チラリとこっちに視線を向け「何」と答えた。―「何でもない」「じゃあ呼ばないでよ」「あら返事してなんて頼んでないけど?」「・・・」
その後に、また「恭弥」って呼ぶ。もう反応しなくなった。可愛いな、なんて思ってクスッと笑ったらむっとした表情でこっちを見られた。私が何かするたびに反応する恭弥が可愛くって毎回からかいたい衝動に駆られる。
「恭弥」
「・・・」
「恭弥」
「・・・」
「きょうやー」
「・・・」
「恭弥くーん」
「・・・何なの」
痺れを切らしたのか呆れた顔をしながら恭弥がこっちを向いた。やっぱり。何だかんだ言って最後にはちゃんと私の方を向いてくれる。(すっごく不機嫌な顔してるけどね)いつもだったらここで私が「ごめん、続けていいよ」って言って終わるんだけど今回は違った。
「ごめん、続けて「」
いいよ、って言う前に言葉を遮られた。ちょっとびっくりした。前までは可愛くお姉ちゃん、とか言ってたのにここ最近は名前で呼ぶようになってる。だからって別に何も変わらないんだけどどこかくすぐったい感じがする。
「どうしたの?恭弥」
「・・・」
無言になったからああ私への仕返しか、と思ったけど、違った。恭弥は書類を机に置き、私の真後ろに移動して後ろから抱きしめてきた。いきなりの事で少しだけびっくりして飲もうとしてたコーヒーを零しそうになった。
「恭弥?」
「・・・」
「ちょっと、名前だけじゃわかんないわよ」
「は、恋人とか、いるの」
「恋人?いたら今頃彼氏の家にでも行ってるわ」
「好きな人は」
「今は必要ない」
「そう・・・」
すると恭弥はパッっと抱きしめていた手を離し、私の隣に座ってきた。今日は、様子がおかしい。なんというか、いつもの意地っ張りな雰囲気が感じられない。私はそっと恭弥の頬に手を伸ばした。
「恭弥・・・?なんか今日おかしいよ?」
「・・・僕はが好きなんだ」
「何?いきなり。そんなの知ってるわよ。恭弥昔から私にべっとりだったじゃない」
「違う。”姉”としてじゃなく”女”としてが好きなんだ」
不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。恭弥がこんなにも真面目に真っ直ぐ自分の気持ちを伝える事なんて今までほとんどなかったから。恭弥はいつもの傲慢な態度はどこにいったの、と疑問を持つくらい焦っているようで私の次の言葉を待っているようだった。
「恭弥、私はね―」
恭弥が少しだけど目を見開いた。頬もよく見れば赤く染まっているように・・・見える。声には出さないけど驚いてるらしい。本当、可愛いんだから。
あなたの
頬を染めた、言葉は
「そんな気持ち、私はずっと前から持ってた。 大好きよ、恭弥」
(やっと、通じたのね)
企画Una persona adorata!様に提出!素敵な企画への参加、有難うございました*
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