は、…姉は。生まれたときから身体が小さくこの気弱な性格のせいでいつもいじめられっこの常連みたいになってた俺をいつだってかばってくれていた。今から考えればそれは姉として当然の行為であって、大して感謝するほどのことではなかったのだが、無知だった当時の俺に、そんな姉の背中はひどく輝いて見えた。

「綱吉のやろー、また姉ちゃんにかばってもらいやがってよー」
「やっぱりあいつはダメツナだなー」
「泣いてばっかだし、本当に男かよ」

その行為がたとえいじめっこたちの反感を増幅させたとしても、俺はとにかく姉が好きだった。俺のことを助けてくれる優しい姉が、好きで好きでたまらなかった。姉の言葉のひとつひとつが俺の胸にじんじん響いて、それは記憶となって俺の脳裏にしっかりと焼きついた。だからあれから何年もたった今だって憶えている、姉の言葉のすべてを。記憶力が最悪な俺でさえ、憶えている姉のありがたい言葉たち。

「おいクソガキ共!うちのツナをいじめてるお前らのほうがよっぽど男として疑うことしてんのよ。恥ずかしくないわけ?小5になってまでそんなことして」
「だ、だってそいつが泣くから…」
「そうだぜ!ダメツナが泣きベソかいてばっかだから悪いんだよ!」
「べそかいてばっかじゃだめなわけ?」

そんな言葉たちの中でも、特に俺が救われたと詠う言葉がある。その言葉はそれから何度も何度も俺を救済してきた。情けないと思う俺の心中の感情を吸い取っていった、本当にありがたい言葉、だ。いじめっこたちは黙りこくっていっこうに言い返してこない。その様子を鼻で笑うように姉は続けた。

「ねえ、どうして泣いたらだめなの?いじめられて、痛くて、怖いときにどうして泣いたらだめなのよ?そんなことなんかよりツナをいじめて痛い、怖いと思わせたあんたたちのほうがよっぽど悪いんじゃないの?…ほら、なんとか言いなさいよ」

そしてその日、生まれてはじめて俺は自分を罵りいじめた奴らにごめんなさいという謝罪の言葉を聞かされたんだ。





どうして俺がそんなことを、ふっと思い出すのではなくこうやってじっくり時間をかけて誰かに説明するように考えるのか。それはきっと、今この瞬間が姉との別れのときだからだ。姉は地方の大学に行くので一人暮らしを始めるのだ。ということは自動的にこの家を出て行くことになるということで

「たまには帰ってくるのよ、
「分かってるよお母さん」
「楽しかったぞ、。元気でな」
「あたしもよ、リボーンちゃん。これからもツナをよろしくね」
「ランボさんもと行くー」
「●☆△×♪○◎★〜!!!」
「ランボちゃんもイーピンちゃんも…ありがとね。また遊びにくるから」
と行く〜!!!」
「アホ牛黙れ。おい、ツナもなんか一言言え」
「そうよ、ツッくんからもちゃんとさよなら言いなさい。」
「ツナ」

彼女の笑顔を見たとき 泣きそうに、なった。
いつもずっと一緒だった俺の大事なだいじな姉。いつからか彼女のことを呼び捨てで呼ぶようになった。は俺が初めてそう呼んだときさえ、いつものほほえみを見せて応答してくれたんだ。大好きなその笑顔で、きれいに笑ってくれた。いつだって。

「俺なら、大丈夫だから」
「…え?」
がいなくても大丈夫…に、なるよ」
「…ツナ」
「だからは安心し、て……」

ぽろり、と俺の瞳からなにか温かいものがこぼれ落ちるその瞬間、の笑顔もわずかに歪んだのが分かった。ああおれやっぱり、寂しいなあ。

「………安心して…よ…」
「最後くらい…泣かないでよ。男の子、なんだから」

そういって唇の先を下に歪めた姉の顔と涙を見て俺は思った。はじめてだ、こんな姉をみたのは と。いつもいつも俺が見てた姉の顔はいつだって口先が上に歪んでるんだ。目だって細くなってて、いつだって笑ってるんだよ。そうだ、記憶のどこを探って抜き出してみたって、俺の記憶の中の姉はいつだって笑ってて。いじめっこに説教していたあのときはもしかして怒っていたのかもしれない、だけど。大丈夫だよ、とそのとき俺の方を振り返ったときの姉はやっぱり笑っていたよ。

「…べそかいてばっかじゃ…だめなの?」

俺が情けなそうに姉を見下げて言うと、姉はそんな俺を見上げて言った。

「……いつから、あなたはあたしを見下げるようになったのかな…」
「…え?」
「いつから、泣かなくなったのかな」

ツナはもう、べそかいてばっかの小さな男の子じゃなくなった。…立派になった、だから

「たまにはべそかいたっていいのよ」
「…姉、ちゃん…」
「大好きよ、ツナ」
「…俺も、ねえちゃんがだいすき…」


姉の言葉は、いつだって、どんなときだって、俺を救うよ。きっとこれからも。




Una persona adorata!(最愛の人!)様に参加させて頂きました!ぐだぐだで申し訳ありません;鵠沼様、素敵な企画をありがとうございました^^