「本当は、離れたくないよね。」 そう、離れたくないんだ。俺らはテーブルを挟んで向かい合わせに座る。 部屋の空気は決してすがすがしいものではない。は退屈そうな表情で 俺をまっすぐに見つめる。気に入らない。すべてを知っているような目つきが。 でも、本当は失いたくないんだ。今のこの状況は何が作り出したんだろう。 いつかはこんな風になってしまうと思ったら最初から何もいらないと思ったんだ。 いつか失われる何かと向き合う勇気なんて端からなくて、そんな不安が僕を支配していたんだ。 「俺に、ふさわしい世界なんてあるのかな。」 「・・・そんなの分からないわ。」 「俺だって、分からない。そもそも、そんなこと考えるのもめんどうだ。」 「めんどう、ね。」 は、微笑んだかと思うとすぐにまぶたを閉じてしまった。 「ねぇ、そもそも世界なんて自分で作り上げていくものなんじゃない?」 は、そう言うと紅茶を一口飲む。 「ふさわしい世界を探すよりも、自分でふさわしい世界を作るべきなんじゃないの?」 ぶわり、窓から風が強く入ってくる。綺麗に切りそろえられた前髪が乱れる。 「いっつもそうやって。めんどくさがって、何がしたいの。」 「・・・失いたくないだけ。」 「そうやって避けてるだけだから何もないのよ。失いたくないなら失わないように動いたらどうなの。」 黙ったまま、淀んだ空を見上げることにする。風は少しずつ絶えず窓から入ってくる。 「は今ふさわしい世界に居る?」 「えぇ、少なくとも満足しているつもりよ。」 「そう。」 「私だってめんどうだわ、こんな話。でも千種と離れたくないから、失いたくないから動いているの。」 「ごめん、多分、俺、今が一番幸せかもしれない。」 「そう、よかった。」 俺は、空を見るのをやめてを見る。彼女はただ微笑んで口にチョコレートを運んだ。 「甘い。」 出かけようか、失いたくはないと、影すらない影に脅えて泣き狂う、世界を一緒に見に行こう。 夜明けはまだこない、生すら静寂に落ちる、ただ、君と生きていると言う事実だけが俺を救う。 未だ見ぬ明日へ (ぼくは目を閉じて期待する) 2008***0615 Shione |