ちゃん、ツッくんに勉強教えてやって頂戴。」




悲壮な顔をしたかあさんが私に頼んできたのは、絶対にやりたくない大仕事だった。




「えーやだよ!ツナにはリボーンくんがいるでしょ!?」

「リボーン君は今仕事でイタリアに出張中なの!ちゃんしかいないのよ!」

「知らないよ!追試の勉強なんて落ちたら私が悪いみたいになるじゃん!やだ!」

「…そう、どうしてもいやというのね。…これでも?」



母さんがさっきとはうってかわって、強気な態度でニヤリと笑って私の目の前に取り出したそれは――




「ゆ、ゆきっつぁん!?」

ちゃんお願い!これでやってくれるわよ、ね?ね?」

「…………んあー、…しょうがない、親友のゆきっつぁんのためにも一肌ぬいでやらぁ!」















――という前置きがあって、私、は愛弟・沢田綱吉の部屋で勉強の監督をしております。
自慢だが、私は頭は悪くない(どーん)。
並中時代から成績優秀常にトップ、精鋭集いし並盛高校へ進学し目指すは天下のハーバード!…っていうのは嘘だけど。
中学のころはテスト前とかにはそれなりに勉強して、それなりの成績を保っていた。
だけど、この目の前の弟ときたら…そんなに派手に遊んでるわけでもないのに、ダメツナってあだ名がつくほどのダメバカっぷりだ。(ダメバカって、ひどいな)





「…ツナ、問一は解けたんだね?」

「うーん…解けたはずなんだけど…確証は…」

「あってるよ」

「マジ!?うわぁオレすごい!」

「この程度解けて当たり前なの!一年の問題だよ?」

「ねぇちゃん厳しいよ…オレにしてみればすごいんだって。」

「問2ができたらそういうことにしてやろう。」

「…いや、それはちょっ…」






もうすぐ2年生も終わるっていうのに大丈夫なのか弟。高校いけるのか弟。





「これはね、問一で証明した定理をこうつかって…んで代入して…足して…ハイとけた」

「おおお…ねえちゃん頭いいなー」

「なーにいってんの。あたしもう高校生なんだかんね?」





簡単の息を漏らす弟にちょっぴり照れくさいのでコツンとちいさく頭突きをしてやる。
痛いなーとヘラヘラ笑いながらツナはまた問題に集中し始めた。


真剣にノートに答えを書きつけるツナをじーっと見つめる。(間違ってるよ答え)
…なんかこうやってゆっくりふたりでいるのは久しぶりかもしれない。
私は私で部活で忙しいし、ツナはツナで山本君とか獄寺くんとかランボちゃんなんかといつも楽しそうにしているし。
中学入ってわが弟ながらかっこよくなったと思う。背も伸びて、今ではもうあたしより高い。
ちいさいころからずっと一緒にいて、いつでもあたしの後ろでぐずくずしてると思っていたツナが、どんどん遠くにいっちゃう気がするな。





「ねぇちゃんさー」

「うーん?」





問題を解く手は休めず、目線はノートに落としながらツナは私に話しかけた。





「高校どーやってきめたの?」

「どーやって…ねぇ、」





高校を決めた理由なんて、確固としたものがあっただろうか。私が並盛高校を志望した理由は特になかったように思う。いや、別にないわけじゃないけど、並高でこの部活をやりたい!とか、この勉強がしたい!とか、そういうのはなかった。





「んー…友達が行くって行ったからなんとなく、かな。」

「なんとなくで行ける高校じゃないじゃんか…」

「それはまぁ、私の才能??フフフ☆」

「うわぁねえちゃん何言ってんの…」






相槌を打ちながらもツナは書く手を止めない。
でも半分はまちがっているぞ、ドンマイブラザー。





「ねぇちゃんがもうちょっと勉強できなかったらよかったのに」

「ツナヨシくん、それはひどいのではないかい?」

「だってそしたらオレねぇちゃんと同じ高校いけたじゃん」






できた、とつぶやいてツナはシャーペンを投げ出し、んーと背伸びをしている。
ねぇちゃん丸付けしてよ。そういうツナの声が聞こえて、私はそれを引き寄せて丸付けをする、はずだったのだが。






「ねぇちゃん、なにボーっとしてんの?」

「…いいよツナヨシ、いまでも間に合う!」






ポカンとするツナの頭を、私は笑顔でぐしゃぐしゃにかき回した。






「うおっちょっやめろよ!ぼさぼさになるだろ!」

「ねぇちゃんが勉強教えてあげるから!だから一緒に並高通おうよ!」

「うあーっ抱きついてくんなって!」






う、うううれしいじゃないか弟よ!!




だってホントはちょっと不安だった。いつでもあたしにくっついてたツナはリボーンくんが来てから変わったから。
ケンカをしたのか、ケガをして帰ってくる日もあったし、友達もどんどんふえてダメツナってあだ名も返上してしまった様だったし。
姉という立場で今までツナを守っていたつもりだったけど、今ではツナは私に守られなくてもひとりでじゅうぶんたっていられるようだった。

…もう、わたしなんていらないかな、って。





「うん、お姉ちゃんはうれしいよ!」

「イテテ…アレ、ねぇちゃん泣いてる?」

「泣いてない!涙腺の制御が聞かなくなってるの!」

「そういうのを泣くっていうんじゃないの?」

「うるさいなー!ツナが生意気なクチを聞くんじゃありません!」

「ごめんごめん。でもホント、ねぇちゃん頼むね?」

「なにを?」

「自分でさっき言ったじゃんか…オレの勉強、見てくれるってやつ。」

「えへへ…改めて言われると照れくさいなぁ」

「よろしくお願いします、姉さん。」

「いいよ、あたしはリボーン君よりキビシイからね?」

「あいつより厳しいのはありえないって!」






普段の二人の生活を見る限り、それもそうなのだが。
よかった、ツナはまだあたしと一緒にいてくれるみたい。
遠く遠く行ってしまうなんて思ってたのも、あたしがツナに対して距離を勝手に作ってたからかもしれないな。
自分で掘った小さな溝なんて、ツナはあっさり無視して私の隣にやってきたくれた。
…うん、あたしはもうしばらくツナと一緒にいたいな。






「あーあ、勉強しないで並高受かれば楽なのになー」

「そんなんあるわけないでしょー!」






問題を解き終えた開放感に身を任せ、ぐでっとしているツナはそんなことをつぶやく。
本気で言っているようで、そんなツナに笑って、私は赤ペンを取り出した。






「まずはこの問題全部直して。あとそれから毎日3時間は拘束するから」

「えーっ!?そんなに間違ってたのオレ!?しかも3時間とか無理だって!」






頑張れ弟よ。協力は惜しまないから。








不埒な考えは捨てておしまい



あとは努力あるのみ!


























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素敵な企画、ありがとうございました!
書いていてとっても楽しかったです♪

ミツナ
2007.2.7