家の近くにある坂を上るとすぐに海にでる。でも、そこは海岸じゃなくて崖の上みたいなところで 灯台もある。その崖の上のような丘のようなところは少し広くて地面には芝生が青々と茂っていて周りには つつじの木々がたくさん植えてある。なんだか別世界のように静かで波の音だけが響いてて夏なのに少し涼しい そこは僕のお気に入りの場所だった。人もあんまり来ないし、のんびりとくつろげて僕はそこでいつも本を読んだり 昼寝をしたりするのが日課みたいになっていた。少し空が曇っていたある日に僕がいつも座ってる場所に誰かが座っていた。 近づくとあっちも僕に気がついたみたいでにこりと笑ってこっちを見た。僕はすこしむすっとしながら近づいて言う。


「そこ、僕の所定位置なんだけど。」
「あら、そうだったの?それはごめんなさいね。」
「早くどいてよ。」
「でも、ここはみんなの場所よあなただけの物ではないわ。」
「いつも座ってるのは僕だよ。」
「私は初めて来たわ。いつもここにいるのならたまにはいいじゃない。」
「・・・(はぁ)勝手にすれば?」
「ふふ、あのね私ここに来たの初めてなんだけど・・・すごくいい場所ね。」
「あたりまえでしょ、僕のお気に入りの場所なんだから。」
「あらあら、そうね。」
「なんで、来たの。」
「ん?暑いから避暑かな・・・。」
「ふうん。」
「なんだか、あなた無愛想ね。もっと笑えばいいのに。きれいな顔してるんだから。」
「ワォ、余計なお世話だね。」
「ふふ、あ、名前まだ言ってなかったね。私 っていうの。」
「そう。」
「あなたは名乗ってくれないの?」
「雲雀・・・恭弥」
「恭弥くんか・・・いい名前ね!」


僕の名前を言って笑ったって人は、なんだか言うのは何だけどかわいかった。顔は小さくて白くてちょっと栗色の髪を高い位置でひとつにしばっていて( 要するにポニーテールっていうやつかな。)白いワンピースと薄いピンクのカーディガンを着ていて足元はシルバーのパンプスを履いていた。ちょっと清楚な かんじだよね。でも、手足とか見ると怖いくらいに細かった。


「恭弥くんは今いくつなの?」
「高校2年・・・。」
「高校生かーまだまだ若いのね!」
「そうゆうはいくつなのさ。」
「聞くの?私ね、今21歳なのよ。」
「別にだってまだ若いじゃないか。」
「!ありがとう。」


ちょっと驚いた顔して笑うがすごく健気で可愛かった。僕は少し顔を逸らして本のかげに隠れる。沈黙があって、特に会話もせずに目の前に広がる海を眺めた。 どんなに見続けてもあまり変わりのない海はとても綺麗だった。青々として吸い込まれていきそうで。水平線は太陽の光に照らされてきらきらと輝いていて唯一聞こえるのは 波の音だけで。随分と時間が流れたみたいな感覚になって少しぼーっとしていた。ふと横をみての横顔をみると澄んだ目がずっと先の海を捕らえていた。表情は真剣で 手は少し震えていた。僕の視線に気がついたは、ふふと笑いながら僕の事を見た。僕ははっとして視線を逸らすけど赤くなった頬を隠すのにわもう遅すぎたみたいで。 僕はとっさにに言う。


「もう日が暮れたから僕は帰るよ。」
「あら、もう帰っちゃうの?」
「うん。僕の場所は誰かさんに取られてるしさ。」
「ひねくれ者ね。」
「うるさいよ。(はぁ)もういいや、帰る。」


僕はその場を離れて少し歩き始めるとの声がした。


「恭弥くん!」


僕は歩くのを止めて立ち止まりのほうに向く。


「なに?」
「本当はね、嘘なの。」
「なにが?歳?」
「…なにを!」
「って違う違う。私が此所に来たのが避暑のためって事。」
「じゃあ、なんで?」
「うん…?なんだか本当の事言ったら自分が悲しくなっちゃいそうだったから。」
「……。」
「本当は、本当は、私あと一週間くらいで死んじゃうの。だからね、誰も居ない静かな所で最後の地球を感じようと思ったの。誰にも会わずにね。そしたら、」
「僕に会った。」
「うん。会っちゃったよね。素敵な男の子にね。」


僕はの方に戻る。そばに行くとは泣いてた。でも、は流れてくる涙も拭わず鼻は啜らずしゃっくりもしていなかった。ただ黙って泣いていた。 それでもは海の先の水平線を見つめ続けていた。


「でもね、私恭弥くんに出会えてよかった。まだ、時間はあるからこんなに湿っぽくならなくていいんだけど…やっぱり現実をすぐにさ受け入れるのは苦しくて辛くて。何とも言えない、けど、ね。」
「そう…」
「あのさ、そんな素敵な恭弥くんにお願いがあるんだけど、これから一週間毎日今日と同じ時間に私と会ってくれないかな?」
「別にいいけど…。」
「本当に!?ありがとう。」
「泣くか笑うかどっちかにしたら?」
「そうね。笑う!ありがとう恭弥くん。大好きよ。」
「恥ずかしいな…」
「ふふ!まだ若いんだからしっかり生きないとだめよ。」


笑って言うの目からは涙がこぼれて風は強く吹いた
。こぼれでたの涙は強風がさらっていって海のなかへと染み込んでいった。


それから一週間僕らは毎日会ったけど本当には一週間して亡くなった。 苦しんだが眠るようにして短い人生を終えたようだった。は毎日ここで僕と会っていた事を両親に話していたみたいで、が亡くなったということを わざわざの両親が僕に知らせに来てくれた。の両親は僕にからです。といってひとつの封筒をくれた。僕は受け取った封筒を見続ける。 の両親は「それでは、ありがとうございました。」と深々と頭を下げ帰っていった。僕は封筒を力一杯握り締めその丘を離れることにした。 歩き出したらまた、後ろからの「恭弥くん。」という声が聞こえてきそうでたまらなく嫌だった。僕はそんなのが聞こえるはずなんてないと分かってるのに後ろを振り向いてしまった。 でも、やっぱり居るはずはなくて変わりに海がいつもより眩しく輝いて見えた。


「僕の方こそありがとうなのに。ばかな。」


そして僕はまた家へと歩き始める。












マリンブルーの海へ









愛を込めて。














僕だってひとめぼれなのに。ってね。0819鵠沼 杵多