変な家の変な女(後編) が進んでいく廊下はちょっと時代を感じる様な感じの板で出来ていてフローリングと言うにはちょっと不釣 り合いだった。しかし、庭と同様にとても綺麗だった。ツヤツヤしてて、掠り傷すらあまり付いていない。僕は ひたすらの後を歩いた。は僕に構わず鼻歌混じりにトントンと廊下を歩いてく。どこまで行くのだろう 。ヘンテコな家だがすごく広い。真っ直ぐな廊下に初めて角があった。そこを曲がると二階へと続く階段があっ た。が振り向き「四段目の階段弱いから踏まないで、抜かしてあがって。足掛けたら落ちるから。」と言っ た。僕は苦笑いで返した。またトントンと馴れた足取りで階段を登っていく。階段を登りきると一畳分くらいの 割と広めのスペースがあって横引き扉があった。扉を開けるとヘンテコな家の二階の外観と同様に一階の和風な 感じとは違った物凄く洋風な廊下が現れた。 「ここは?」 「気にしないで、お母さんが和風の家は嫌だって言って無理やり作った二階だから」 「そう。」 あの話を聞いたあとだとの口から"お母さん"というフレーズが出てくるとなんだか不自然な気がした。それ にしてもこの二階は完璧な洋風になっていた。さっきまで和の空間に居たとは思い出せないほどだ。今度はきっ ちりとフローリングと言って間違いのないツヤツヤの床があった。壁はクリーム色の壁紙が貼ってあって壁の中 腹には金色の…なんていうのかな。縁?みたいなものが延々と付いていた。部屋は三つあってそれぞれドアは木 で出来ていて曇りガラスがドアの半分を占めていてノブはこれまた金色で出来た丸いノブだった。廊下の電気は オレンジ色で柔らかく、弱すぎず強すぎず。が立ち止まってそれぞれの部屋の説明をし出した。 「えーと、まず入ってきて一番手前がお風呂場と洗面台があるから使いたかったら使ってね。それから、こっちのが お手洗い。これも使いたかったら勝手に使って。最後が、寝室。お母さんのだけど・・・。」 ガチャリと音がしてドアが開く。床はグレーの絨毯でふかふかしていた。白いレースのカーテンと厚手の壁と同じ クリーム色のカーテン。昼間の日が目一杯部屋に入ってきていた。暖かい。あとは、デザイナー物だろうか。 デスクが一台、パソコン、テレビ、電話、棚などの生活用品が最低限そろっていた。ベッドは大きくクイーンサイズ のもので脱ぎ捨てられた服とかパジャマなどが放ってあった。 「今は、私が使ってるの。いいベッドでしょう?特注なのよ。じゃ、上にいきましょ。」 はテラスへと進む。一階から見たときと同じようにそこはテラスと呼べるようなものではなかったが。(ほぼ屋根の上な訳だから) テラス(一階の屋根の上)へ出ると横にハシゴがかかっていた。しかし、屋根のくせに全く汚れていない。自分が今立っている所だって 綺麗だ。足をついたって足の裏が汚れない。ハシゴも綺麗だった良く登っているのだろうか。ぼーっとまた色々な事を考えているうちに はもう屋根の上にいて「早く、登りなよ。もしかして、やっぱり怖いの?」とか言ってきたから「考え事してただけだよ。」と返してひょい と登って見せた。するとは驚いたかのように僕の事をみて「案外身軽なのね、さっきの発言撤回するわね。」といって僕に手を伸ばしてきた。 屋根の上には毛布のようなものが敷いてあってはその上に座っていた。 「よく屋根の上に登るからこうやって座るところ作ってるの。」 「屋根の上好きなの?」 「うーん、街を見下ろすのが好きだからかな。」 どさっとの横に腰をおろして街を見下ろす。高さが高くなっただけで街は何も変わらない。家で見たときと同じように 道に人がときたま通ったり車が多少行き交うだけのつまらない景色で風が吹いたとて木々が多少なびくだけで鳥が飛んできたとて、すぐに飛び立つだけの そのままの同じ景色だった。 「景色なんて、何も変わらないけど・・・・?」 「あはは、そうね。街を見下ろすというか耳を澄ませるのよ。」 「耳?」 「そう、景色は変わらずとも音は、毎日変わるわ。静かにして、何も音を立てずにただ耳だけを使って街の音を聞くの。」 「・・・・・。」 「そうするとね、毎日香ってくるそこの花の香りだって、毎日吹く生ぬるい風だって、木々の葉が擦れる音だって捨てたものではなくなるの。」 僕は、が言ったとおりに目を閉じて街の音に耳を傾ける。少しすると風が柔らかく吹いて、木々の葉が擦れる音がして、 花の香りがして、鳥がさえずり、何処かで選挙の演説の声がして、車のエンジン音がしてきた。なるほど。見ただけでは分からない 街の動きが垣間見れた。(聴けた、だろうか。)僕が引っ越してきてから見てきた街は死んでるみたいだったけどここから聴く街の音だけは 忙しく鳴っていた。確かに活気に溢れていてわずかながらも生きていた。確かに死んでないと感じられる。この、街のすべての音を五感を 駆使して神経を尖らせて感じとろうとすると忙しい。一秒、一秒、目の前の街からは違う音が聴こえてくる。ここにいると、時間の流れなんてもの が分からなくなってくる。雑音のなかの、鳥の鳴き声とか、木々の音とかは新鮮だった。こんな所に、毎日居るなんてうらやましいな。 ふと横をみると僕の家があった。道は、迷路のようだがの言うとおりここからだと一望できた。あ、お腹なった。 「どう?」 「うん、すごくいいや。新鮮だよ。」 「でしょう。毎日居たって飽きないわ。」 「ねぇ、ところで僕今日まだお昼を食べていないんだけど。」 「あら、お腹すいてるの?」 「少し、ね。」 「ふふ、庭に来るネコみたいね。そう、貴方髪が黒いから黒猫ね。目も鋭いし。」 「そう?初めて言われたな。」 「あら、おかしいわね。初めて見たときから動物に例えるならそうかなって思ったんだけど。」 「まぁ、いいわ。お腹が空いたのなら出前をとりましょう。」 は立ち上がって一回二階に戻って出前の注文表をもってきた。 「何がいい?私このお店が好きだからここのでいいかしら?」 「うん、なんでもいいよ。」 「私は決まってるから、注文表見て決めてね。」 「ありがとう。」 ●○●○●○ 「僕は、カツ丼でいいや。」 「わかったわ、頼んでくる。」 はまた二階へ行って注文を頼んでいた。電話のキーを押す音との声がした。僕はその間も目をとじての声とともに街の音を聴いていた。 なんとなくすっきりした気分になる。トントンとハシゴを登る音がした。が登ってくる音だ。 「注文してきたから、待ててね。ここで食べる?」 「いや、どっちでもいいよ。」 「それより、ここにこんなに居ていいの?」 「いや、一人暮らしだから。」 「そうだったの。じゃぁ、独身?」 「(・・・・)まぁ。でも、付き合っている人は居るよ。」 「そうなの?じゃぁ貴方の彼女さんは幸せね。」 「なぜ?」 「貴方は、優しい人な気がするから。」 「初めて言われたよ、それも。」 「あはは、ちょっと残念ね。」 「なにが?」 「貴方の事、ちょっと好きよ。」 「・・・・ありがとう。」 それから、10分ほどして出前が届いた。お金を払い結局屋根の上で食べた。 それから、また少し話をして僕とは一階の縁側へ戻り茶を少したしなんで、少ししてから僕はの家を出ることにした。 「じゃ、帰るよ。ありがとう。」 「こちらこそ、久しぶりに話せる人が居て楽しかったわ。」 「また、屋根の上に遊びに行くよ。」 「ふふ、毎日来てもいいのよ。今度は彼女さんもどうかしら?いつだってドアの鍵は開いているから 勝手に入ってきて頂戴。」 「ずいぶん、物騒だね。」 「大丈夫よ。ここへの入り口は貴方の家の塀の所からだけだから。」 「・・・・そうなの。まぁいいや。それじゃ、もう観察するのとかやめてよ。」 「どうかしら、きをつけて。」 僕はまた錆びた門を押し開けて迷路へ足を踏み入れ家へ戻った。 僕が今日会った変な家の変な女は、べつに変な女じゃなかった。 家は、変だったけど女はただの寂しがり屋だった。 人には、それぞれ事情があって街は死んでなくて、自然は偉大で。 人の思想は美しくて、儚くて、悲しくて、苦しくて、喜びで、自由で不安定なものだ。 変な家の変な女改め 、 変な家の自由な女 倖 燗拿20070312 |