蓋を開けたら、優しさか、残酷さか。謝罪か、詫びか。 左腕か、右腕か。右足か左足か。下半身か上半身か。 それとも頭か。 どれも、ちがう。 目の前の黒い服を着た死骸を見る。地面は赤くねっとりと、血なまぐさい。個々に死に様は違う。弾丸が肉体にのめり込んでいる。 任務を終えて一息といったところです。沢山の死体を前にしてちょうど敵地の庭にあったベンチに座る。大きく息をすってはく。 血の臭いしかしないのです。自分の手の平を見るとべっとりと血がこびりつき所々血が乾き始め変色してきている。変な感じ。 空は、青い。雲が漂っていて平和だ。空は残酷なものだよ。ずっと上から地球全体を見渡している。そう、空色かえず、に。 いつ、なにが、どこで、起こっても平然と。まるで薄ら笑うかのようだ。私には、そう見える。じゃり。と背後で音がした。まだ敵が残っていたのか?! と思い条件反射で姿勢を低くし銃を構える。するとひょん、と声がした。 「は見方にも銃を向けるの。」 「・・・その声、ひばり?」 「誰だろうね。」 「・・・。どうしたの?」 「いや、帰りが遅いから見に来ただけ。」 「そう、なの。」 「信じられなさそうな表情だね。」 「ひばりもそうゆうことしてくれるんだ。と。」 「・・・何気に失礼だね。」 「ごめんね、失礼な女で。」 誰かと思ったらひばりだった。まったく、びっくりしちゃうなぁ。ひばりは何時もどうり、黒いスーツと昔から変わらないつり目とふわふわの猫っ毛で現れた。 チラリと死骸の山を見て「ワォ!コレ燗拿が全部片付けたの?」とかいって群れをみて噛み殺したくなったときみたいな楽しそうな顔で言った。 私は頷いて返事を返す。その後もしばらくその場でひばりは死骸を見つめていた。少し目を細めて眩しそうに。どうしたのだろう。いつものひばり じゃない気がする・・・気のせいか。コツ、コツ、とひばりが私の座ってるベンチまでやってきて私の顔を少し見てから横に腰を下ろした。ベンチが 少し揺れた。ひばりは今何を思ってるんだろう。敵地の四角く白い壁で囲われた場所で。沢山の死骸と血なまぐささと青空のあるこの空間で。 「ねぇ、。」 「なに?」 「死んでみたいって思ったことある?」 「どうして、あるけど。」 「・・・あるの?」 「人間だれしも一度は思うことだとは思うけど。」 「そんなものなのかな。」 「私はそう思うだけ。」 チャキ、と音がしてひばりがトンファーを出す。今日も、良く磨かれていて太陽に照らされ眩しく光っている。そして、血を沢山吸っている。 「トンファーなんて出して、いきなりどうしたの?」 ひばりが、口をあけて何かを喋っている。でも、それを聞くことは叶わずにいきなり私の頬にひばりが振り回したトンファーが当たる。痛い。 う、と私が声を上げると嬉しそうに笑ってまたトンファーを構えた。私がなにするの、と発言しようと口をあけた瞬間また、ひばりがトンファーを 当ててくる。そう、発言権を奪われたのだ。いや、私は発言することを拒否されたのだ。ひどいな、意味が分からないよ。どうしたのひばり。 死骸を見て気がふれちゃったのかな。どんどん、休みなしに攻撃される。反撃も出来ない、体からは血、口からも血、どこもかしこも血が滲む。 だんだん、だんだん、意識が遠退いていく。やばい、私このままだとそこに居る死骸さんたちの仲間入りしちゃう。あぁ、だめ死ぬ、かも。 突然ぴたりとひばりの攻撃が止まる。私は力を出来るだけふりしぼって目を開いてひばりを見る。 「・・・なにか言いたそうだね。」 少ししてから、また言う。 「いきなり、こんなことしてごめんね。このまま30分ぐらいすれば多分は死んじゃうね。でも、それでいいんだよ。このままは死ぬんだよ。 僕は、が好きだよ。ずっといえなかったけど最後だから言ってあげる。が好きだよ。だから、めちゃくちゃにした。を好きになるのは僕だけでいいんだよ。 ほかの奴なんかにを愛せたりはしないんだから。僕だけでいいんだ、よ。ほかの奴にを見せたくないから、いっそを消しちゃえばいいんだって思った。 正直、僕は頭がおかしいと思う。ごめんね、手放したく無かったよ。最後は僕がそばに居て見取ってあげるから。安心して眠ってくれていいから。」 そう言うとひばりは意識が遠退いて死にそうな私のそばに座り、うつ伏せになっている私の顔だけを優しくひねり上を向けさせて血が滴る口に接吻をした。 とても長く、ね。接吻をされた私は涙を流していた。何故三者の目でみるかといえば、半ば幽体離脱をしているからだ。 「あぁ、もう逝くのか。本当にさようならだ。」 「だけはちゃんと葬ってあげるから、花を毎日置きに行ってあげるから。はもう僕のものだよ。それと、もう一つ。」 あ、もう耳が遠くなるよ。でも、最後に聞こえたひばりの声、言葉。 「死は、にんげんの中で最も悲しいんだよ。それから、魂の抜けた死体は最も美しいんだよ。さようなら、大好きだよ。」 だき、し、めた。最後の感覚は苦しいと、きついと、眠い。さようなら、ひばり、みんな、私、地球、ちきゅう、チキュウ。 今日もそうやって空色変えずに人の死に様をみて薄ら笑うのですね、酷いですね。ヒドイですね。ひどいですね、世界。 蓋をあけたら、慈悲 倖 燗拿20070329 |