ふと、何かを思って外に出た。 いつも着ているコートとこの間買った服とお気に入りのパンツとブーツを纏って。今日は晴れてて太陽が、まぶしい。 ああ、せっかくコート着たけど暑い・・・。なんだ今日はいつもより気温 が高いのか。春みたいだ。・・・そういえば昨日テレビの天気予報で「明日は春並に気温が上がり暖かくなるよ うですよ。」とかキャスターがいってたな。まぁどうでもいいけど。家を出てしばらくするといつもの公園と川 と川に架かっている橋が見えた。公園を横切ろうと思って、公園の中に入った。子供達が、群れてる・・・。う るさいな。とりあえず歩きつかれたので公園のベンチに腰をかける。ふうと溜息が出た。僕も高校を卒業して大 学にいって、気がついたら20歳を過ぎていたんだなぁ。家を出たのはいいけどこれからどうしようか。手にな にかふれた・・・?あぁトンファーか。これもしばらく使っていないな。常備しているわりには、うん。血をた くさん浴びたし、自分も結構傷ついたな。一度トンファーを新しくしようとしたけどやっぱり長年使っているせ いかこのトンファーが一番しっくりくる。多分これから先ずっとこれを持っているんだろうな。 そんなことを思いながら空をみて、なんとなくここでじっとしていても仕方がない気がして公園を出ること にした。それから橋を渡って並盛中学のほうへ行く。やっぱり、なにもかわっていないな。校歌もそのままだし 。僕がいなくなってから・・・8年か。あ、だめだ。いろんな記憶がよみがえってくる。すこし、お茶でもしよ うかな。この間見つけた路地の中にポツンとあるお洒落な店。もう14時をすぎたか、丁度いいかな。そのまま 歩き続けて商店街にはいりレストランと本屋の間の細くて少し薄暗い路地にはいる。なんとなく早足になる。あ 、あった。ここだ。路地から一歩おくまった所に建つヨーロッパ風の小さな家みたいな外観。屋根は赤い瓦で壁 は白いレンガ、すこし砂っぽい感じで、レンガがところどころはがれている感じ。入り口は白い壁と合うこれま た白い扉で上半分がベル方のガラス張りですこし線が入っている。内側には「OPEN」の板がかけてある。ち ゃんとやっているようだ。それと、店の前のガーデニング。素焼きの鉢に緑色の植物がたくさん植わっていてた まに黄色やオレンジ色をした花たちがまだ冬だというのに大きく花開いていた。その植物達 の間に立ててある木枠にはいった黒板にはオススメのケーキや紅茶、軽食、ケーキセットなどが料金とともに丁 寧に色鮮やかなチョークで書かれていた。ずっとここに突っ立っているわけにも行かないので中に入った。ドア ノブに手をかけ、扉を開けると扉についていたとおもわれるベルがチリンと鳴り、中から同じ年くらいの若い女 性が出てきた。僕に一言「いらっしゃいませ」とやわらかい笑顔で声をかけてきた。「一名様ですか?。」僕は うなずく。「かしこまりました。どうぞお好きなところにお座りください。」もういちど僕はうなずき席に座る 。店内はちょうどいいくらいに温かくやわらかい光で満ちていた。間取りは、僕が入ってきた扉の横にすぐ窓が あって中は入ってすぐ斜め横に壁が正面となるカウンターでそれとともにカラフルでシンプルなデザイナーもの のような椅子が四脚並べてあるものとソファがL字型に並べてあるもの。このソファのところはちょうど扉のよ この窓際だ。それと僕が座っているもの。黒く塗ってある木で出来たテーブルと椅子。椅子には可愛い(?)刺 繍が施されているクッションが縛り付けてある。僕が座っている席の少し離れた斜め前には 会計用のレジがありその奥にキッチンがあり、さっきの女性が見える。レジカウンターの下はガラス張りの冷蔵 庫になっていていろいろな種類のケーキが並べられている。レジカウンターの回りもいろいろと飾られている。 あさひもに吊るされた葉書や人形が飾られていたりこのお店のアドレスなどがかいあてある紙やら何やらでいっ ぱいだった。レジの横にある籠の中にはいろいろな形にくりぬいてあり中心にはカラフルな飴でデコレーション してあるクッキーが売られていた。壁も眺めてみるとやさしいタッチでかかれた水彩画などところどころ飾ってあ り造花も飾られている。曲も、流れている。クラッシックだ。とりあえず一通り眺めてからコートを脱ぎ隣の空 いている席にコートを置く。するとそこへさっきの女性が近づいてきた。「お客様、アールグレイは飲めますか ?」そして僕はまたうなずく。女性は僕の返事を聞いてにこりと笑いあたたかいアールグレイの紅茶を差し出し てきた。「お砂糖とミルクはいりますか?」また、うなずく。またにこりと笑い、差し出した紅茶の横に角砂糖 の入ったビンと温めてあるミルクを置いた。「ご注文が決まりましたら呼んで下さい。」女 性が、いや、彼女が立ち去ろうとした時に僕は初めて声をだした。 「あの、」 「へ?あ、はい。なんでしょう?」 「そこのケーキなんだけど何があるか教えてくれない?」 「はいかしこまりました。」 一瞬驚いたような声をあげてまたにこりと笑いケーキの説明をし始めた。種類は9種類。そのうち3種類はタル トで2種類はパイ、もう2種類は普通のスポンジそして最後の1種類マフィンだそうだ。タルトはひとつがカボ チャのタルトでペースト状のものと固形のものが混ざっていて食べるさいには生クリームとともに食べるそうだ 。もうひとつはベリーチーズ。苺とクランベリーとブルーベリーのミックスでクリームチーズと混ぜてあるもの でタルトの底は薄めにできているらしい。最後はチョコレート味のもので生チョコレートがミックスしてあるも のらしい。パイは林檎のパイでシナモン入りのもの、もうひとつは野菜、ほうれん草とかベーコンみたいなもの がはいっていてケーキというより普通の食事の時に食べるようなものだと言った。スポンジのものはごく普通の ショートケーキなのだが季節によって中の果物が変わるらしい。それとナッツがクリームとまぜてあり上のホー ル形の物はチョコレートだと言った。マフィンはバナナマフィンでチョコチップがちりばめられているというこ とだ。ひととおり説明しおえた彼女はふぅと息をはきえへへと笑いながら「全部手作りで甘さ控え目なので 安心かと思われますよ!」といった。僕は返す。 「ここのケーキはすべて君の手作りなの?」 「はい、もちろんです!味は・・・多分だいじょぶだと思われます。」 「店員は君、一人?」 「えぇ、そうですよ。お客さんはまだ少ないですから。」 「オープンしたばかりなの?」 「はい、えっと2ヶ月まえに始めたばかりです。」 どうりで。見つけたばかりのとき、こんなところにこんな路地に不釣合いな店があっただろうかとおもったのだか ら。でも、彼女を見ると同い年くらいだがまだ若い。一人で小ぢんまりとしているが割とひろい店を建てられそ うもないが・・・。すると彼女がまるで僕の心を読んだかの様に言った。 「まだ、22ほど女がこんな店を一人で営んでるなんて驚きます?」 「え、あぁ。」 「ふふ。たまに来るお客さんとか友達とかにも驚かれるんです。」 にこにこと嬉しそうに言うと「あ、少し喋りすぎちゃいましたかね。」といいながら「ケーキの他に軽食とかオ リジナルブレンドの紅茶とかもありますので。」と思い出したかの様にテーブルの上にメニューを置いた。そし てまたキッチンの方へと歩いていった。きっと紅茶のポットを片付けているのだろう。それにしても、さっきの 発言には驚いた。本気で心を読まれたのかと思った。まぁそんなことはどうでもいいし、普通はありえない話なので 置いておいて。彼女の印象。最初、店内に入ったときにみた笑顔。笑う顔というものはこんなにもやわらかいものだったのか、 と思わせるくらい朗らかだった。彼女はセミロングぐらいのストレート。つややかな黒髪で綺麗にひとつにまとめられていた。 顔は、おおきな黒目とあまり日焼けしていない適度に白い肌。頬はやや赤めでどちらかというとまだあどけない感じがした。 身長は僕の肩ぐらいで細い。手は指が長く厚みはあまりない綺麗な手だった。はぁ。僕がこんな短時間で人を観察したのは 初めてだな。誰かに優しくされるなんて滅多になかったからかな。いや、どんなお店にいっても客に優しくするのは当たり前だが なにか、ここは違う。彼女の雰囲気が・・・いやなんでもない。うまくいえないな。なんだろうか。とりあえず、なにか食べよう。 飲み物は・・・さっき彼女が紅茶を出してくれたのでいいとして。ベリーチーズのタルト・・・か林檎のパイか・・・。 ・・・・。どっちも食べようかな。うん、そうしよう。テーブルの上に置かれたベルをとん、とたたく。チリンと高い音が店内に響く。 そしてまた奥から彼女が出てくる。にこりと笑いながら。 「お決まりになりましたか?」 「うん。ベリーチーズと林檎のをもらえるかな。」 「はい、わかりました。あ、ふたつ召し上がるならセットにしたほうがお得ですけど。」 「でも、紅茶はもうもらっているから・・・・。」 「そうゆう場合は5種類の紅茶からそれぞれ試飲していただいて気に召したものを一杯分だけお持ち帰りに出来るのですがどうでしょう?」 「そう、じゃあお願いしようかな。」 「かしこまりました、少々おまちください。」 すると彼女は赤い丸い紅茶の缶をもってきてそれぞれを小さなポットに注ぎ、普通のカップのひとまわりほど小さいカップに それぞれを注いでいった。そして、こんどは紅茶の説明を始める。左から、薔薇とグレープフルーツの紅茶。アイスで飲むのが おすすめだといった。それからパッションフルーツとピーチのもの。少し多めに砂糖をいれて甘めに飲むといいと。それから、 ホワイトグレープとグレープのものこれまた甘めのアイスがいいと。あとはダージリンハニーというもの。最後は僕も最初に出された ノーマルなアールグレイだった。彼女はパッションフルーツとピーチがオススメだといった。とりあえず一つ一つ飲んでいく。 「お口には合いますか?」 「うん。みんなおいしいよ。」 「そうですか、よかったです。ではどれになさいますか?」 「そうだなぁ・・・薔薇とグレープフルーツがさっぱりしててよかったな。」 「そうですか、では袋に詰めておきますね。ケーキ、今もってきます。」 「うん、ありがとう」 持ってきた試飲用の紅茶セットを持って店の奥に戻っていった。それから、レジの方にきて屈んで冷蔵庫からケーキをだす。 あぁ、なんか甘い香りがするな。それからすぐに新しい紅茶とともにケーキを運んできた。皿に綺麗に置かれ、周りに綺麗な デコレーションがしてありすごく見栄えがよい。「紅茶を、新しいのに変えますので、」といって新しいカップに新しくだした紅茶 を注いでいく。新しいミルクとともに、またテーブルに置く。 「じゃぁ、ごゆっくりどうぞ。」 「ありがとう。」 一口、食べる。味はたしかだった。ベリーチーズもしっかりとクランベリーとかの味が失われてなくチーズも濃厚なものでこってり しているのにさっぱりしていた。林檎のパイは温かく温めてあってシナモンは強すぎず弱すぎず。林檎は硬すぎず柔らかすぎず。 周りのパイもとてもおいしかった。ひととおり食べ終え、まだ湯気のたつあたたかい紅茶を口に運ぶ。おいしい。 ふとレジカウンターをみると彼女がちょうど僕が持ち帰る用の紅茶を小さなかわいらしい袋に詰めているところだった。 気が付くともう16時ちょっと前になっていた。結構この店にも長居してしまった。そろそろでようかな。僕が、席から立つと 彼女も顔をあげにこりと笑い会計の準備をした。 「どうでしたか?」 「とても、おいしかったよ。紅茶もね。」 「それはよかったです。頑張って作ったのにまずい何て言われちゃへこんじゃいますしね!」 「それもそうだね。でも、確かに味はとてもよかったよ。」 「あはは、そんなにおだてないでください。おだてると調子にのりますよ、わたし。」 笑顔は確かに温かい。そしてとても無邪気だ。可愛いというのか。 「いくら?」 「640円です。それと、紅茶です。飲んでくださいね!」 「どうも。」 「あの、ひとつ聞いていいですか?」 「なに?」 「お店の雰囲気はどうでしょうか?」 「・・・すごくいいと思うよ。僕は、好きだよ。」 「そういっていただければ本望ですね。」 また笑う。あぁ、わかった、これが一目惚れというものか。 「ねぇ、名前は?」 「 ですよ。」 「そう。さん、僕が君の事好きって言ったら信じてくれる?」 一目惚れなんだけど。 と、付け足して言う。驚いた顔の彼女の返事は。 ヨーロッパ風紀行愛 二日遅れのバースデープレゼント。おめでとう凛ちゃん! 倖 燗拿20070128 |