わたしと恭ちゃんはどこで間違ったのか姉弟として生まれてきてしまった。




わたしの恭ちゃんへの強い執着心がいつごろ始まったかなんて覚えてない。
もしかしたら恭ちゃんが生まれた時からその醜い独占欲はわき出ていたのかもしれない。
恭ちゃんと離れるなんて身を裂かれることのように思えたしわたしは何をするにも恭ちゃんと一緒にしなければ気がすまなかった。
両親もそのわたしが子供ながらに持つ執着をおかしなものだと思い見ていたのかもしれない。
物心がついた頃にわたしは気づいた。
まわりの人間と自分が違うということを。
みんなわたしのように弟に執着している子どもなんていなかった。
そこでやっと気づいたのだ。



自分が異常であるということを・・・・




それからわたしはその心にふたをしておもりをのせた。
そして深く深く沈めて隠したのだ。他人が気づかぬように、、、
このときわたしはこの醜い執着は自分だけが持っているものだと思い込み生きていた。
でもそれは間違いだったのだ。
そう、それはわたしの執着する恭ちゃんにも言えることだったのである。


その執着心に気づいたのは恭ちゃんが中学に入学するころだった。



当時のわたしはそんな醜いものを心に隠し持っているなんて他人に気づかれないよう行動していたし、
また自分でも忘れようとしていた。
そうやって中学生活にも慣れ仲のよい友人たちもできある意味で充実した生活を送っていたのである。





それは突然だった。





“雲雀恭弥”が並中を牛耳ったのは。


そしてわたしが学校を我が物に治めようとせん“雲雀恭弥”の姉だということが知れ渡ったのは。





その噂は瞬く間に学校中に広まっていった。
そして広まっていくと同時にわたしのまわりから一人、また一人と人が離れていった。
最初、わたしは憤った。
姉というだけでなぜ離れていくのかと!
しかしすぐに絶望がやって来てそして諦めてしまった。
離れていくなら勝手に離れていけばいいと・・・・




そして“雲雀恭弥”が完全に並中を手中に入れたと同時にわたしは一人になった。
でもわたしは独りではなかった。だって恭ちゃんがいたから。
その後、わたしは他人と自分との間に厚くて硬い恭ちゃん以外のだれをも通さない壁を作った。
そうしてわたしは世界から断絶された。




****





わたしは恭ちゃんの胸にもたれかかって座っている。
そして天井からぽつりぽつりと落ちる水滴を眺めていた。
恭ちゃんはわたしの肩にあごをのせて静かに息をはく。 それが首にかかって少しこそばゆい。


どちらかが体を動かすたびに水面が妖しく波打ち揺れる。
光を反射しながら揺れる液体は優しくわたしと恭ちゃんを包み込む。




静かだ。




そこに聞こえるのは2人の吐く息と揺れる水面の音だけだ。




静かだ。





「この世から僕と以外のすべてのものがいなくなればいいのに」




そう呟きながら恭ちゃんはわたしのおなかにまわした手をさらにきつく抱きしめる。
恭ちゃんの言葉は熱に犯されたわたしの頭にゆっくりと染み渡っていく。
そして理解して噛み締める。






そしてわたしは肩にのる恭ちゃんの頭をやさしくゆっくりと撫でながら言うのだ。







「恭ちゃん・・・とりあえず一緒に死んでみる?」






心中ごっこ

こうしてわたし達は少しずつ一緒に死んでいく。



                                     (25/Jan/2008 素敵企画「Una persona adorata!」に提出)