オレが包み込んだは実に小さかった。自分が思っていたよりもずっとずっと小さかった。それでも、このま まつぶれてしまうんじゃないかと思うぐらい抱き締めた。力なく、うなだれるを。抱き締め始めてどれくら いの時間が経ったかは分からないけど、いきなりオレの背中に何かが触れた。の小さな白い手だった。まだ 抱き締め返せる力があったのか。「つなよし…あった、かい、ね…。」消えそうな声で言った。でもオレはなに も返さない。「わたし、きっと…泣いちゃう。」また泣くのか。どれ程泣けば気が済むんだよ。「また、泣くの かよ。」「だって…流れ出て、くる、んだ…もん。」そんなに泣いてどうするんだよ。泣いたって仕方がないじ ゃないか。オレだって泣きたいよ。 なんでこんなに下らない理由で泣いているんだ? 「つなよしが好きすぎて、泣きそうだわ。」 いきなり言ってきたはすぐにオレの目の前でバタンと倒れた。一週間ぐらい姿を見せないから、どうしたの かと心配してたらこれだ。急いで抱き上げたけど気を失っていた。そのまま呆然としていたらオレとがいる 部屋に山本が入ってきて、をソファに寝かせすぐに医療班を呼んでくれた。診断結果は極度の寝不足と精神 障害だった。まぁ軽い鬱状態だったらしい。目を覚ましたにどうしたんだ?と問い掛けると、黙ってオレの 頭、頬、首、肩と順番に手で触っていった。その後の第一声は「つな、よ、し…だ。」。様子がおかしい。やっ ぱり鬱だったせいか?もう一度同じ事を聞く。すると、今度はちゃんと返事をした。「つなよしの事…ずっと、 考えて、た…。」考えているだけでこんなになるものか。「そしたら、いきなり目の前が見えなくなって現実か 夢か分からなくなっちゃってぼーっとしてたの。」ぼーっとしてた、というのは鬱状態の時の事だろう。要は考 えすぎて頭、思考回路の収集、がつかなくなり睡眠は愚か食事や掃除などの生活習慣が手につかなくなり鬱に重 なり体の状態も悪くなった、という事か。一体この一週間になにがあっただろうか。任務を 終えたはいつもの様に屋敷に帰ってきて報告をしてオレが泊まっていけば?と問い掛けたが「今日はなんだ かすごく疲れているから自分の家に帰るよ。」といって帰ってしまったんだ。でも、その時はそれといってなん の変化もなかった気がしたが。その他に思いあたるような節はない。 「ねぇ、つなよし。」 突然、がオレの名前を呼んできた。 「どうした?」 「あのね、今思うとね私がこの一週間ずーっと考えていたことってすごく無駄なことだったみたい。」 「それは、どうゆうこと?」 「つなよしと私がいつまで一緒に居られるかなってことだよ。永遠なんてもの、ないでしょう?」 まったく、呆れるもんだよ。がこの一週間、体調を崩してでも考えていたことはどれ程壮大なものなのかと 思ったがこんなくだらないことだったのか。まぁ、確かに命ある人間に永遠など有りはしない。誰しも未来に限 界があり終点がある。だから、たとえ愛する人や大切な物があったとしても想いとかは永遠かもしれないけど生 命の比に比べたら永遠なんてことない。少し考えれば分かることを本当にどうしたのだろうか。 「なんで、いきなりそんなことを?」 「わからないけど、すごく不安になってしまったから…。」 「考えすぎだよ。永遠は無いかもしれないけどオレはここにいるよ。」 「うん。それは分かってるの。つなよしがここに居て、私のそばにあるっていうのも永遠なんて無いのも分かっ てるの。」 分かっているのに何故、そこまで考える必要があるんだ。 「でもね、分かっているのに頭の何処かで変に考えてしまうの。」 オレはまた黙り、返事を返さずを見る。 「不思議な感じがするの。自分がどこまで生きられるのか分からないから先ばかり考えて、泣いて、自分から苦 しくなるの。」 「そんなことをして、どうするんだよ…。」 「幸せをかみしめるの。もし、こうなったら。もし、ああなったら。って考えて今の自分の幸せを考えて、無駄 にしないように目一杯つなよしを愛そう。とかつなよしとの時間を大切にしようとか。まぁこれはつなよしだけ に限ったことじゃないけどね。」 自分で自分を苦しめてどうするんだよ。幸せをかみしめるってなんだよ。幸せって感じているならそれでいいじ ゃないかよ。そんなことをしてなんの意味があるんだ。ありもしない先のことを考えてありもしないことで泣い て苦しんで意味が分からない、ただの馬鹿じゃないか。もう、なにがなんだか分からなくなってしまったようた 。 「じゃあ、は今の幸せだけじゃ不十分なのか?」 「ううん、そんな事はないよ。十分すぎるぐらいだよ。つなよしはどんなに忙しい時でも私と一緒にいてくれよ うとしてくれるもの。」 「じゃあそれでいいじゃないか。自分から苦しむようなことするなよ。オレまで泣きたくなる。」 「…どう、して?」 「が泣いているところなんて、できれば見たくないんだよ。いつも笑顔でいて欲しいオレからすれば嫌なん だよ。」 「つなよしは…やっぱりやさしいね。」 今日、初めてが笑った。 そのままオレはのいるソファに近付いて抱き締める。見る限りでは分からなかったがは小さく小刻みに 震えていた。少しすると医療班が投与していた薬の副作用からか力が抜け意識が朦朧としてきたらしく抱き締め ているオレに体を預けてきた。もう、言葉すら途切れ途切れにしか発せなくなった頃。 「つなよし…わたし、きっと泣いちゃう。」 泣くなって言っているのに。 まだ泣き足らないのか。 ああ、お前はなんて馬鹿なんだ。 泣いて、何になる。 なんて下らないことで、 泣いていたのだろう。 ある日の憂鬱 ちょっと早いけど梨津サンに誕生日おめでとう! めでたいのに暗い夢でごめんなさい! 倖 燗拿20070225 |