多分、多分よ、私は悪くないの。
もう何回この一言を繰り返したことか。
行く宛も無く車を走らせながら、はハァっとため息をついた。
窓の外の太陽は、私の心と正反対にさんさんと照っている。
窓の外に広がる青い海が、悔しいくらいに美しかった。
だって、ディーノが女の人とお酒を飲みになんか行くから。
もちろん2人っきりよ、他ファミリーとの交遊みたいな事だって、ディーノは言うけれど。
夜遅くのバーに2人っきりなんて、やっぱり嫌。
せめて先に言っといてくれれば良かったのよ、多分。
なのに、隠そうとするなんて。
私、そんなに信用ないのかしら?
はため息をつくと、車を止めた。
初挑戦の料理が思いの外上手くいかなくて、少し不機嫌だった時に知らされたこの事実。
よく考えたら、すごく些細なことなのよ。
でも、私が屋敷で一人ぼっちだった時に、ディーノが他の女性と会っていたなんて。
気づいたら車のキーだけ掴んで屋敷を飛び出していた。
私と結婚することが決まった時に、ディーノが建ててくれたお屋敷。
白と薔薇の大好きな私に、ディーノが用意してくれた部屋。
壁もソファーもベッドカバーも、全て真っ白で、おまけに薔薇園まで作ってくれた。
嬉しくて嬉しくて、あの時は涙が出たわ。
ずっとずっと貴方の側にいます、私は世界一の幸せ者よ、ディーノ。
そう言ったらぎゅっと抱きしめてくれたよね。
薔薇の咲き誇る美しい庭で、そっとキスを交わした。
ここで結婚式も挙げようねって、誓ったの。
『少しの困難くらい、覚悟していたつもりなのに…妻失格だわ。』
彼がマフィアの世界の住人だって知った時から、自分が後戻りできないことは、分かっていた。
彼の素性がどうであろうと、私がディーノを愛する気持ちは変わらない。
不安や嫉妬なんて、過去の私と共に捨ててきたはずだった、なのに。
『だめだ…やっぱり帰らなきゃ、』
全てを受け入れてもらおうなんて、思わない。
だけど、私が貴方を誰よりも愛していることは、紛れもない事実だから。
この想い、伝えるよ。
***
確かに俺が悪いけど、だけど…何だこの展開は!!
探しに行きたくても、正直あいつの運転に追い付ける気もしなくて。
こんなこと、ロマーリオたちに言えるはずがない。
『うあぁぁぁあ゛ー……』
部下が側にいなきゃヘマをするのと同じで、俺はがいなきゃ正直生きていけない。
側に居ることが当たり前すぎて、何かを忘れていた。
『帰って来てくれ…。』
虚しく響いた俺の声も、全て君だけの物のはずなのに。
『…ただいま、ディーノ。』
だからその一言に、心臓が止まりそうになった。
『…、』
『うん…ごめんなさい、ディーノ。』
私の顔を見ると、すぐにディーノが抱きついてきた。
彼の腕の中にすっぽりとおさまって、肌で彼の優しさを感じる。
その温かさがひどく懐かしく思えて、途端に切なくなった。
ごめん、ごめんなさいディーノ。
私、貴方を信じられなかった自分が悔しいよ。
『本当…帰ってきてくれて良かった、』
『…ごめんなさい、』
頬に伝った涙をぬぐおうと、体を離して向き合う。
私の顔を見て再度安心したのか、ディーノがへへ、と言って笑った。
なんか頼りないなぁなんて、心の隅で思ったり。
だけどそれは、彼がかつて“へなちょこ”と呼ばれていた時と変わりなくて。
初めて会った頃のまま、昔の貴方を忘れないよ。
そう心に言葉を宿して、精一杯の笑顔で彼を見上げた。
笑っちゃうの、君の顔
(ただいま、ディーノ)
君のいない世界なんて考えられない。
なぜなら君が、今の私の始まりだから。
END